更新日:2023/10/02
近年、CRM(顧客情報管理)の重要性が認識されてきています。その中でも、顧客と会話するタイプの「会話型CRM」が注目されています。 この記事では、CRMについて解説しつつ、会話型CRMの特徴および運用例を紹介していきます。
顧客が企業の価値を見定める上で、重要な指標となるものの1つが「CX(顧客体験)」です。ネット社会の発達に伴い、必ずしも顧客と対面したり対話しなくてもCXが得られる時代になりました。
いつ、どこで、どのようなかたちで接点を持った場合でも、優れた体験を顧客に提供できるかが重要です。このことがデジタル時代の企業価値を決めるポイントになっているといってもよいでしょう。
しかし、実現するのは簡単ではありません。顧客のライフスタイルの変化に常にアンテナを張り、顧客のニーズに先回りした体験を提供し続けなければならないからです。
例えば、顧客が興味を持った商品・サービスを詳しく知りたい場合、以前は企業のWebサイトにアクセスし、問い合わせ先に書かれたメールアドレスや電話番号に連絡するのが一般的でした。
数時間~数日後に返答を受け取り、商品・サービスを購入したいと考えたら、また別の窓口に電話やメールで申し込みをします。
しかし、スマートフォンの登場後、このスタイルは一変しました。メインのチャネルは「LINE」「Facebook Messenger」やSMSなどのメッセージングアプリとなりました。
メールとの大きな違いは、人との会話同様の即時レスポンスや、動画、フォームといったリッチコンテンツを同時に提供できるようになったということです。
スマートフォンが生活に広く馴染んだことで、BtoCだけでなく、BtoBのコミュニケーションでも同様の質とスピード感を求める傾向が強まっています。
企業が、製品・サービスを購入する顧客との間に親密な信頼関係を作ることをCRM(顧客情報管理)といいます。顧客と企業との相互利益を向上させることで、顧客を企業のファンへと育成していく、と言い換えることもできます。
例えば、あなたが美容室でカットをしてもらった数日後に、担当した美容師さんから「先日の髪型はいかがですか?」と書かれたハガキが届いたとしましょう。あなたはうれしい気分になり、次も行こうかなと思うでしょう。これもCRMのひとつです。
顧客ごとに、どんなアプローチをされたらうれしく感じてもらえるのか、リピートしてもらえるのかを丁寧に考えることが大切です。しかし、顧客一人ひとりにマンパワーで対応するのは大変です。規模が小さいうちは、一人ひとり心をこめて対応することは可能ですし、顧客に喜んでもらえることを実感できるでしょう。
ところが、規模が大きくなれば一人ひとりに真摯に対応するのは難しくなってきます。それでも、CRMを続けていかなければ、顧客の定着率も低下し、企業の成長が止まる原因にもなりかねません。
業績を伸ばしている企業は、この状況をいち早く察知できており、BtoC/BtoBのコミュニケーションにメッセージングアプリを活用しています。
もちろん、単にアプリを導入しただけで優れたCXは提供できません。そこで重要になるのが「会話型CRM」のアプローチです。
多様化した顧客ニーズを把握するために、顧客に関する情報を履歴データとして蓄積します。そのデータを分析・活用することで最適なコミュニケーションを実現し、利益を最大化するCRMが会話型CRMです。
CRMは顧客コミュニケーションにまつわる様々な情報を管理し、営業活動や商品・サービス開発などに生かす施策です。ここに投入する情報を、顧客との「対話」を基に収集していくのが、会話型CRMです。
様々なメッセージングアプリとCRMシステムをAPI連携することで、対話データをベースにした顧客管理の仕組みを構築することができます。
(画像引用元:優れた顧客体験を実現する「対話型CRM」)
上の図は、実際に運用されている会話型CRMの例です。
商品やサービス、店舗の営業時間の情報提供や、コミュニケーションツール上での予約、販売などに自動化されたボットを利用することができます。またカスタマーサポートや、ポイントサービス、クーポン配布など顧客のロイヤリティを上昇させる施策も自動化できるのが、会話型CRMの強みです。では、会話型CRMはどのようなメカニズムになっているのでしょうか。
会話型CRMを成立させる重要なポイントとして、高機能の会話ボットが必要となります。この会話ボットを使用する事で、LINEやMessenger(旧Facebook Messenger)などのメッセージングアプリでのやり取りを自動化できるのです。
AI技術の進歩により、高機能ボットの確立が可能となりました。このAIによるボットは、顧客との会話を重ねることで、カスタマイズされていくことも特徴です。会話をトレーニングさせることで、ボットがよくある問い合わせにより的確に対応することができるようになります。
サードパーティーのデータを活用することで、顧客対応部門に寄せられた問い合わせに対する適切に回答できるようにもなります。
高機能ボットは問い合わせ対応だけではなく、あらゆるシーンに活用できます。
LINEなどのメッセージングアプリ経由のコミュニケーションは、その特性上、相手が誰なのかを容易に特定できます。会話を重ねる中で、個々の顧客に対する理解をどんどん深めていくことができるでしょう。顧客の期待に迅速・的確に応えられるようになり、CXを向上できるほか、企業ブランドのイメージアップやアップセル/クロスセルにつなぐことも可能になります。
従来は、カスタマーサポート担当や購入サービス担当が、顧客一人ひとりにマンパワーで対応していました。
高機能ボットを運用させることで、ある程度の問い合わせ対応や注文対応を自動化することが可能となっています。
ボットで顧客対応を自動化すれば、顧客からの問い合わせや購入希望に24時間年中無休で対応できるようになります。これにより、有限である人的資源を効率的に配置することができます。また、顧客側から考えると、疑問に思ったことや購買意欲をすぐに解決できるので顧客満足度の増加にもつながります。
一般的な質問にはボットが先行して回答してくれるので、必要に応じてサポート担当者に対応を引き継ぐことができます。
簡単かつ的確にコミュニケーションが行えるツールを提供することで、負荷が高まりがちなカスタマーサービス部門、あるいは関係するすべての従業員の体験(EX)を改善することができます。それが結果的によりよいサービスの提供、CX向上につながるのです。多種多様なサードパーティ製のメッセージングアプリと連携し、やりとりを統合的に管理できます。蓄積した最新の対応履歴と外部システムのデータをAIで分析することで、次に取るべきアクションについてアドバイスを受けることも可能です。
CXとEXの両方を高める会話型CRMの導入は、企業のさらなる成長には必要不可欠といえるのです。
ここまで、会話型CRMを導入するメリットを説明してきました。ここからは、実際に導入している企業の会話型CRMを紹介します。どのような点に注意し、工夫しているかに注目してみましょう。あなたの会社が会話型CRMを運用するつもりがあるなら、きっと参考になるはずです。
(画像引用元:https://chatplus.jp/blog/colmun/chatbot/#i-13)
まず、カネボウ化粧品の会話型CRM導入事例です。肌年齢診断アプリのよくある質問応対に、LINE上でのチャットボットを活用しています。図のようによくある質問をボタン形式にすることで、ユーザーは直感的な操作が可能です。あらかじめよくある質問に対する回答を自動化させることで、顧客満足度を高めることに成功しています。
(画像引用元:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/chatbot/index.htm)
公共機関でも会話型CRMは有効です。国税庁の主な業務の一つに確定申告の対応があげられます。確定申告の時期になると、電話での問い合わせが殺到します。国税庁の職員への業務負担も膨大なものとなり、その負担軽減が喫緊の課題でした。そこで、国税庁においても会話型CRMが導入されることとなりました。高機能会話ボット「ふたば」です。(数参照)
納税者から過去に寄せられた問い合わせを分析し、AIに学習させることで実用化にこぎつけました。現在ではかなりの確度で、納税者からの問い合わせに回答できており、担当者の業務負担の軽減につながっています。
(画像引用元:http://www.shibuya109.co.jp/news/214/)
若者のトレンドの発信基地として有名なSHIBUYA109でも、会話型CRMが運用されています。
ユーザーが『SHIBUYA109』と『109MEN’S』の LINE アカウントを友達登録することで、LINE のトーク画面上でショップ検索・フロアガイド・施設案内などすべての情報を閲覧できます。また、高機能会話ボットとの会話を通じて、ユーザーの好みの傾向を分析します。 SHIBUYA109公式通販とも連動し、気になったショップの新着商品や人気商品の情報も自動で配信されるなど、より購買につながる機能になっています。今後は、商品検索やコーディネート配信などの機能を拡大、また、通販サイトで購入まで至らなかったユーザーに対して、その商品情報をLINEで再度配信するなど、公式通販との連携も強化し、ユーザーがLINEにて有意義な情報を取得しやすい機会を増やしていきます。
(画像引用元:https://www.sbisonpo.co.jp/)
会話型CRMは商品を売る企業や公共機関だけでなく、保険や金融系企業での運用も効果的です。例えば、SBI損保では、自動車保険に関する問い合わせに会話型CRMを使用しています。
商品である自動車保険の内容や契約している保険の解説だけでなく、保障に関するオプションや特約条項など、気になることに関して質問すると即座に答えてくれるシステムとなっています。疑問点に即座に対応してくれるので、顧客の安心感を担保してくれます。
この記事では、近年重要視されているCRMについて説明し、とりわけその中でも注目されている会話型CRMについて運用例を交えて紹介してきました。デジタル化の急速な進展に伴い、顧客満足度を高める施策はスピード感を求められています。満足度の高いCXを即座に生み出すことはマンパワーだけでは限界があります。会話型CRMで半自動的に顧客対応することで、限りある人的資源を必要なところに集中させることができます。企業の成長は、優秀な会話型CRMの構築なしには成り立たないといえるでしょう。
株式会社リクルートホールディングスでWEBマーケティング業務および事業開発を経験し、アメリカの決済会社であるPayPalにて新規事業領域のStrategic Growth Managerを担当の後、株式会社Enigolを創業。対話型マーケティングによる顧客育成から売上げアップを実現するsikiapiを開発。